『silent』の余韻、伏線回収の先に感じる ささやかで温かい“言葉”

TV 公開日:2022/12/28 1
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「これだけ?」

まるでクリスマスプレゼントのような時間を届けてくれたドラマ『silent』(読み:サイレント、フジテレビ系)。


最終回は、過去のシーンやセリフがどんどん繋がって幸せに回収される見事さに感動を覚えたものだが、改めて見てみると、その回収の上で大切にしたいと思ったのは、一見「これだけ?」と笑えるくらいささやかで、涙が出るほど温かい誰かを思う気持ちだった。27日(火)から31日(土)の5日間にわたってフジテレビ(関東ローカル)では全話再放送。ドラマの余韻にもう少し浸っていたい。



「お花は音がなくて 言葉があって 気持ちがのせられるんだよ」

どうしてこの言葉がこんなにも心をじんわり温めるのだろうか。SNSでも「グッときた」「素敵すぎてなんだか泣きそうになった」「心に残った」と反響のあったこのセリフは、主人公の紬(川口春奈)や想(目黒蓮(Snow Man))の言葉ではなく、奈々(夏帆)が花屋の店員と筆談でおしゃべりしていて店員から教えてもらったこと。それを聞いて奈々は思わず買ってしまった花束を春尾(風間俊介)に「おめでとう」と言って渡す。
もちろん、言葉そのものの素敵な気づきや納得感もあるのだが、これまで『silent』で伝えられてきたメッセージがそこに詰まっているからこそ心の奥に湧き上がる感情があるのではないだろうか。


高校生のとき、紬は黒板の前で想から急に言われた「紬」が嬉しくて、もう一度言ってほしくて「え?(名前の)何が珍しい?私の何が珍しい?」とわざと聞いた。想もまた、イヤホンをしたまま音楽を止めて紬に話しかけれらることをこっそり待っているくらい、紬の声を聞くことが幸せだった。8年後、想は耳が聞こえなくなり、再会した紬は一生懸命手話を覚えてまた寄り添おうとする。想は少しずつ前を向きながら、友達や家族との関係を修復していったが、紬の声が聞こえないことだけがやっぱりつらい。


最終話、大人になって訪れた学校の教室で、二人は黒板にチョークで文字を書いて話す。紬の声が聞こえないことがつらい、という想の気持ちを聞いてから、紬は声を出さずに手話だけ、もしくは目の前で文字を書いていくことで想に気持ちを伝える。紬がチョークで「声ださないよ」と書いて想が手で消し、紬が「笑わない」と書いて想が消し、紬が「電話しない」と書いて想が消し…。感情が目に見える形ではっきりと映し出される演出には、必然性と相手を思いやる気持ちがある。第5話のラストで、想が紬にノートを1ページずつめくって伝えるシーンがあった。ページをめくるためらいも覚悟を決めたような表情も、それは“顔を見て話す”ということなのだと思わせてくれた。センス際立つ『silent』の演出だが、そこに意味と温かさがあるから感動を生む。そして、その第5話のノートで、想が「やっぱり再会できてよかったと思う」「これからは全部 言葉にしようと思ってる」とまっすぐに紬に伝えた決意が、教室で「再会できてよかった」と文字にした紬との未来につながっていたのだろう。


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