大庭(赤楚衛二)といる時も、羽男はやはり大人なのだが、無邪気でちょっと抜けているキャラクターがまた魅力的に映る。
羽男が気を使って「デートにいきなよ」と促すも、大庭は石子とのデートに羽男も誘いたい。羽男の目の前で背を向けて石子に相談。了解を得て、振り返って「あのー」と話し出そうとしたら、すぐさま「うん 全部聞こえてるよ」「今 目ぇ合ったじゃん 一瞬」と羽男がツッコみ、断ったはずが…芋煮のお鍋に目を輝かせ、玉こんにゃくは何度箸でやってもとれない。石子と大庭に応援され「汁と絡めてるだけ」と言い訳し、皿に口をつけかきこむ愛すべき羽男さん。
そんな楽しくやわらかい羽男の表情が、一変したのがラストシーン。父親(イッセー尾形)を前にして一気に表情がこわばり、「今の事務所は佳男のふさわしい場所じゃない」と言われると、みるみる目に涙がたまる変化は、中村倫也の真骨頂。呼吸も乱れ「と…と…父さん」と父を見つめる羽男は、小さい子供のように見える。父の前では無力だと理解している羽男にとって、「別のとこ 話をつけてある」という父の言葉は事務所を去ることを意味する。羽男の目にたまった涙や苦しい表情からは、それだけ石子たちといる場所が奪われたくない大切な場所になっていることがわかる。
第8話は依頼人とその息子夫婦が歩み寄り、石子と綿郎も雪解けをした回。綿郎が石子に「苦労させてしまって ごめんなさい」と深々と頭を下げると、目に涙をためる石子の姿は感動を呼んだ。石子は「お父さんはそのままでいてください 私も変わらず小言を言い続けますから」と互いに無理のない関係を続けていこうと話す。そして敬語をやめ、こみ上げる綿郎の背中を見つめていた。
羽男はその直前のシーンで「もともと どっちが間違ってるっていうわけでもないですしねー お互いに少しずつ 譲り合うのが大事かもしれないっすよねー」とさりげなく石子の背中を押し、「うらやましいですわ 話し合える親子」と漏らしていた。その直後にこの落差はエグい。「話し合ってもムダ」。石子と羽男、一瞬でたまった涙の理由は正反対だった。
ナチュラルでやわらかい空気と、凍り付く涙。動きのあるコミカルな掛け合いと、繊細な気持ちの受け渡し。さまざまな見え方をする中村倫也の振り幅に酔いながら、羽男というキャラクターがますます愛おしくなる。
第9話は、赤楚衛二の振り幅にも期待。
これまで真面目でちょっと天然で愛くるしいドラマのオアシス的存在だった大庭くんが、第8話ラストで逮捕されてしまう。しかも放火容疑。連行される大庭は驚いて抵抗するというより、一点を見つめ何か思いを持ったような表情をしていた。予告映像には、羽男が「君は人を殺したの?」と問う様子も。果たして“裏の顔”とは何なのか。「きみたちは全員バカだ!」と話す御子神(田中哲司)も気がかり。第9話も目が離せない。
文:長谷川裕桃