2022年1月から放送され話題の連続ドラマ『真夜中にハロー!』(テレビ東京ほか)。主演の菊池桃子が、「ハロー!プロジェクト」の熱狂的ファンであるゲストハウスのオーナーを演じ、モーニング娘。’22、アンジュルム、Juice=Juice、BEYOOOOONDS、つばきファクトリーといったハロプログループのメンバーが毎回熱いパフォーマンスを披露して反響を呼んでいる。
そして3月からは、ハロプロ研修生の同期メンバーである川村文乃、橋迫鈴、西田汐里、山﨑夢羽が出演し、AKB48の柏木由紀がゲストヒロインを演じる、dTVオリジナル『真夜中にハロー!』が配信スタート。それを記念し、今回はハロプロの生みの親であるつんく♂氏と、ドラマの企画・プロデュースを手掛けた北野篤氏(博報堂ケトル)にインタビュー。企画の成り立ちから撮影現場でのエピソード、誕生から25年を迎えたハロプロの魅力について語り尽くした。
■『真夜中にハロー!』の誕生秘話とコンセプトワーク
——ドラマ『真夜中にハロー!』の企画の成り立ちを教えてください。
北野
僕は5年くらい前から、ハロプロさんのミュージックビデオ(MV)を作るお手伝いをしていて。それを見たテレビ東京のプロデューサー・寺原洋平さんから、「ドラマを一緒にやりませんか」と、ご連絡をいただいたんです。それで、せっかくMVを見て声を掛けていただいたし、寺原さんもハロプロが好きだとおっしゃっていたので、ハロプロを絡めた企画も立てて提案してみたら実現したという形です。
——それから、つんく♂さんと北野さんの間で、何かやりとりがあったのでしょうか。
北野
いや、今が初対面です(笑)。
つんく♂
(笑)。
北野
だからこの場を借りてお聞きしたいんですけど、『真夜中にハロー!』の企画書をご覧になったとき、率直にどう思われました?
つんく♂
僕の楽曲なり、僕のメッセージ(歌詞)なりを切り取って物語にしてもらえるっていうことで非常にうれしいし、面白い企画だなと。例えば、エンディングテーマになっている『I WISH』(モーニング娘。/2000年)は、20年以上前に作った曲。それをもう1回焼き直して世界に訴えかけることができるのは、とってもありがたいことです。……北野さんに関わってもらったのは、『モーニングみそ汁』(モーニング娘。’17)からだよね?
北野
初めてお仕事をさせていただいたのは、その準備をしていた2016年です。
つんく♂
そんな前かぁ。だから今日も初めて会った気がしないし、今回のドラマも、まあ、悪いようにはされんだろうと(笑)。安心感のなかで、「あとは預けた」という感じでした。
■ドラマにハロプロが出るには、ベストな出方
——さまざまな悩みを抱えてゲストハウスを訪れた人の前に扉が現れ、開くとハロプロの楽屋に繋がっているという斬新な設定です。着想はどのように?
北野
今回は不特定多数の人が目にするテレビドラマということで、ハロプロを知らない人たちにも魅力を伝えるために歌やダンスは絶対に見せたい、でも、いきなりパフォーマンスが始まっても、視聴者はびっくりしちゃうだろうなと。そこでまずはゲストヒロインのドラマやハロプロメンバーに共感していただいて、その上でパフォーマンスに移るというくだりを入れたいなと思ったんです。そのための装置として考えたのがドアと楽屋です。ドアは、ゲストヒロインたちが自分の心と向き合うきっかけになるもの。楽屋は彼女たちが何かを乗り越えて、次のステージに向かうための場所として考えました。ちなみにドアには、ハロプロの“沼”への扉という意味合いも込めています。
——こうして作られたストーリーについて、つんく♂さんはどう思われましたか。
つんく♂
第1話は設定を説明しなきゃいけない的要素が詰まっていたけど、第2話以降は物語が充実してきて、ヒロインがゲストハウスに集まる理由もしっかり描かれていく。そのドラマ部分や、楽曲にいくまでの過程が面白かった。あと、ハロプロの子たちをどうドラマに出すかという難題だったとは思うけど、結果的に放送を見て「名回答!」って思いました。
北野
うれしいです(笑)。
つんく♂
実際、ハロプロの子たちの芝居が始まると、役者としてはプロじゃないのですごい辿々しいわけやん?(笑)きっとがんばってセリフを覚えてきたんだろうけど、女優さんたちとの差が歴然。逆に「ああ、この子たち、歌手で良かったな」って思った(笑)。でもその辿々しい違和感が、ちょっと気持ちいい部分でもあって……。ドラマの中にハロプロが出るには、ベストな形。プロデューサーとして、うまいワザを使いはったなぁ〜と思います。
北野
ああ、優しい(笑)。菊池桃子さんの主演については、どう思われました?
つんく♂
菊池さんがハロプロの曲をいじること自体、めっちゃ不思議な出来事やなって。菊池さんは同学年で、僕なんかよりも全然早く芸能界に入って、10代から戦ってきた人。ハロプロの子たちからしたら先輩芸能人の1人かもしれないけど、そうじゃない。僕が思うに、今回のドラマで一番物語っているのは、彼女の生き様。「今のアイドルを扱うドラマなんて、私はやらない」と断ってもいいところを、若い子たちとしっかり向き合って、歌ったり踊ったりしてくれていて。そのこと自体がすごいメッセージだと思うし、本当にありがたいし、うれしいし、見ながら泣けてきた。
北野
今回の撮影の最後に、小田さくらさん(モーニング娘。’22)が菊池さんに駆け寄って、握手してたんです。菊池さんに「応援してるから、がんばってね」と声を掛けられて、すごくうれしそうに帰っていった(笑)。そのとき、つんく♂さんが最初に好きになったアイドルから、つんく♂さんが手がけた今のアイドルであるハロプロメンバーとが繋がった瞬間が見れたのかなと思って、心が熱くなったというか。「このドラマ、やって良かった!」と思った瞬間でした。
——放送後の反響は、どのように感じられましたか?
北野
頻繁にツイッターのトレンドに入っていたりして、反響の大きさを感じました。うれしかったのは、これをきっかけにハロプロの曲を知ってくれた人がいたり、「曲は知らなかったけどメンバーが好きになった、励まされた」という声があったりしたこと。あと個人的には、母親から突然LINEが来て、「シュールだけど優しいドラマだ」と言ってくれたのが、すごくうれしかったです。「親孝行したな」って、ちょっと思いました(笑)。
■扉の向こうの「楽屋」を描くdTVオリジナル「真夜中にハロー!」とは?
——3月からは、dTVオリジナル「真夜中にハロー!」が前後編で配信されます。このdTV版では楽屋にいるハロプロメンバーが描かれ、ゲストヒロインはAKB48の柏木由紀さん。どのように発想されたものですか?
北野
dTVは有料のサービスなので、お金を払ってでも見たいと思えるものにしなきゃいけない。テレビ版を見た人も引き続き楽しめる構造で、よりハロプロファン向けに作ってみようと思いました。そしてプロデュースチームの話し合いで出てきたのが、楽屋をメインに描くというアイデア。テレビ版で扉が開くのを待ち構えていたハロプロメンバーは、楽屋で何をしていたのか。扉の向こう側を描いたら面白いんじゃないか、という話になったんです。
——つんく♂さんはdTV版の企画を聞かれて、どう思いましたか。
つんく♂
僕もdTVに加入してますけど、見る側は、テレビとそこまで区別してなくて、やっぱり中身が大事。今回はハロプロの子たちの芝居でどれくらい成立するか心配だったけど、やっぱり見たいとは思ったよね。楽屋を覗き見られる、チラリズムとして(笑)。
——メインキャストに川村さん、橋迫さん、西田さん、山﨑さんというハロプロ研修生の同期であるメンバーを選ばれた理由は?
北野
アンジュルムの川村文乃さんのようにマグロの解体ショーができる人がいたり、BEYOOOOONDSの山﨑夢羽さんのように正統派だけど少し変なキャラクターもいたりして、この期は面白い人が多いと思いました。もし彼女たちが楽屋にいたら、どんなことを話しているのか。想像しつつ、過去のインタビューなどから彼女たちの発言を拾ったりしながら脚本を作りました。
——つんく♂さんは、このメンバーの起用について、どう感じましたか。
つんく♂
僕もまだ完成したものを見てないからなんとも言えないけど、やっぱり違和感と気持ち良さは感じたかな。そもそもモーニング娘。は、違和感が大事というか。デビュー当時、JUDY AND MARYのYUKIちゃんみたいなナチュラルな歌手が主流だとしたら、モーニング娘。はアンナチュラル。ヘッドフォンの付け方すら分からない歌えない子たちを、いかに商品にしていくかという、ある種の魔法を使ってきたわけです。今回はそのドラマ版で、演技の素人を、どうパッケージ化するか。プロデューサーの力量が問われるし、うまくいくと快感なんだろうなって思いました。
——ゲストヒロインの柏木由紀さんのキャスティングついては?
つんく♂
それもまた、違和感。その積み上げはズルいけど、とても楽しみな違和感です。なので、気になるよね(笑)。
——柏木さんは、かつてモーニング娘。のオーディションを受けたことがあるとか。北野さんは、そういったリアルなことも盛り込んで脚本開発を?
北野
そうですね。dTV版では、柏木さんが役を演じるのではなく、柏木由紀さん本人として扉を開くという設定。そしてハロプロメンバーも本人役なので、菊池さんだけがマリコという役を演じているという、不思議なドラマになってます(笑)。
——完成したdTVオリジナル「真夜中にハロー!」の見どころ、注目ポイントは?
北野
「楽屋でのハロプロは、こんな感じなんだろうな」と、想像しながら楽しんでもらえたら面白いと思います。柏木さんのアドリブも含めた、リアルな語りも見どころです。本当のファンの人って、好きなものについて語るときに早口になると思うんですけど、dTV版ではそんな柏木さんが見られる(笑)。それから、菊池さんが、コメディに振り切ってくれたところがあって。「ここまでやってくれるんだ〜」っていう部分も、意外な見どころかもしれないです(笑)。