綾野剛の“笑っていない笑み”が胸を突く『アバランチ』が描こうとしているもの

TV 公開日:2021/11/09 34
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藤井道人が描きたいのは、この社会にはびこる不正や悪に見て見ぬふりをしている人々への警告なのか。それとも正体のわからないものに簡単に煽動され、たちまちに本質を見失う民衆への風刺なのか。まだそこが見えてこない。その足元の不安定さが不吉な高揚感となって、観る人を中毒にさせる。『アバランチ』は、そんなドラマだ。


だが、大衆は手のひら返しが何より得意な生き物だ。


「一度配信されたら、もう誰にも止められない」


打本は、ネット上で醜態をさらした神崎にそう告げた。けれど、この言葉がいつか「アバランチ」に返ってくる気がしてならない。いつか「アバランチ」の正体が明らかになったとき、しかもそれが正義の味方ではなく、テロリストというキャッチーな言葉とともに流布されたとき、壮絶なネットリンチを食らうのは、間違いなく「アバランチ」の方だ。


「あとの判断は、この動画を観ているすべての人間に委ねる。それが、俺たちアバランチ。アバランチだー!」


演説する打本は、自身の正義に酔っていた。純粋な悪意も恐ろしいけれど、純粋な正義感もまた危うい。むしろ昨今のネット上での誹謗中傷の多くは、行きすぎた正義感によって生まれている。


そんな打本をケタケタと笑う羽生(綾野剛)や牧原(千葉雄大)も、「でも、仲間っていいもんだな」としみじみ噛みしめる打本も、どこか薄氷の上にいるようだった。車に乗って、3人で帰途に着く姿は、その光景だけを見ればまるで大人の青春劇のようで、羽生の言葉を借りるなら「エモい」。だけど、すでにリナ(高橋メアリージュン)の身元が割れているように、もう大山の追求の手はそこまで迫っている。どうかこの得体の知れない恐怖心が、ただの心配のしすぎであることを願いたい。


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