キスマイ北山宏光、人懐っこい笑顔からの落差…振り幅と繊細さ光る『ただリコ』の名演

TV 公開日:2021/09/25 25
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雪映の妹、菜穂(西川可奈子)に夫と認められ、雪映と産婦人科に行き、新しい仕事も決まった。編集部でライターとして仕事を依頼され、大きな笑顔を浮かべる正隆。この笑顔こそ本来の北山の魅力といっていい。その帰り道、ビルでエレベーターに乗り、降りていく。何気ないシーンだが、この下降するエレベーターが天国から地獄へ落ちる片道切符のような演出である。ゴォーという音だけが響くエレベーターは不気味としか言いようがない。ドラマの序盤でも、正隆がこのエレベーターに乗って降りるたび、正隆の人生は一段ずつ堕ちていった。


地獄の門を真っ先に開いたのは創甫だった。突然、街中でナイフを持って正隆に襲い掛かる。ナイフを刺そうと「死ね、死ね、死ね」という創甫に、萌を思い出した人も多かったかもしれない。全然、顔は違うのに萌と似ていると思ってしまったほど。必死に応戦する正隆だが、目を見開いた演技を見せる北山も、きっとそのことを意識しているだろう。ただ襲われているだけの恐怖ではない。「姉ちゃんを返せ」という創甫に萌を重ね、狼狽したような表情も見せている。警官に取り押さえられた創甫を見つめながら、正隆はようやく思い出す。俺は萌を殺したんだ……と。ちょっと切なさも交えて呆然となったような微妙な表情が、そう物語っている。現場での演出家のハードルは、きっとかなり高かったのだろう。それほどまで複雑な正隆の思いを北山が体現しているからだ。家に戻り、創甫に切り付けられたダウンジャケットを見て、再び陰鬱な雰囲気をかもし出す正隆。もう、戻れない、やっぱり以前の日常には戻れないんだ、と認識しているかのようである。


だが、地獄はこれで終わらない。佐野を殺した仁科が家へやって来る。萌の遺体を掘り起こしている正隆と雪映の写真を持って。絶望する正隆に雪映は語りかける。「殺そう」と。決意を固めた雪映の言葉に正隆は首を振り、涙ぐむ。そのときの正隆が、雪映におびえているのか、再び人を殺さなければならない状況におびえているのか、そうさせてしまった自分への後悔なのかは分からない。だが、最後に見せた決意のような目。あれは何を意味しているのか……。


それにしても佐野は今回、仁科に簡単に殺されてしまった。佐野は粗暴で正隆から金を引き出そうとする最悪なキャラクターといっていい。だが、正隆たちに監禁され、おむつ姿で逃亡し、焼き殺されてしまった佐野を見ていると、どこか愛着のようなものまで覚えてしまう。それほど見事な役作りでもあった。

【画像】オムツ姿の佐野


絶望感が続いてきた中で、一筋の光のようなものが映し出され、転落していった今回。最終回となる次週が壮絶な展開になるだろうということが予想できる。もう残り1話、最後まで北山の演技から目が離せそうもない。


文:今 泉



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