またしても“ラスト5分”の出来事だった。
彩子<日高>から、1件の動画が日高<彩子>に届く。
鼻歌とともに「どうも~」「見えますかねぇ~?」
映し出されたのは彩子<日高>と逆さづりにされた“何者”か。
目の前の映像に日高<彩子>は、これから何が行われるか薄々感づいているのか…「現実にならないで」と聞こえてきそうな困惑の表情で画面を凝視。
バシッ。
衝撃。思わず前によろける。まるでファンファーレに1発頭に叩き込まれたかのように。無残な現実の幕開けだ。
バシッ。
2発目。大きく瞳が開く…。目の前の“コト”が本当に行われているのか疑いたくなる。
バシッ。バシッ。
夢ではないことを思い知らされる。殴られる音と連動するかのように嫌でもこの“現実”を叩き込まれる。開いていた口はふさがり、震えが止まらない。
殴っている彩子<日高>に重なる本来の日高(高橋)の姿。そして日高<彩子>の瞳孔は開ききり、悲痛の表情。このコントラストが、より残酷でどうしようもない絶望感を与えてくる。
「これでもう元に戻ろうが戻るまいがあなたも殺人犯」
「あなたは私で私はあなたです」
「どうかお忘れなく」
トドメ。瞬き一つしていなかった高橋が、崩れ落ち、一筋の涙とともに、今度は弱々しく何度も瞬きを繰り返す。このどうしようもない結末を受け入れられないかのように。
ここまでの約5分、日高<彩子>の胸中は、高橋一生のアップにされた表情のみで切り取られている。言葉もない。浅い息遣いが聞こえてくるだけだ。
瞳の強弱、まゆげに至る細部まで行き届いた表情の震えだけで、“困惑”“衝撃”“疑い”“認知”“痛み”、そのすべてを寸分の狂いもなくドストレートにぶつけてくる。