中村倫也の「ありがとう」は希望への道しるべ、『美食探偵』最終話の余韻

TV 公開日:2020/07/01 76
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「ありがとう」


28日に最終話を迎えた日曜ドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)。東村アキコ氏のミステリー漫画をドラマ化した本作は、コロナ禍で放送中断や延期する作品が多い中、4月からスタートし、途中サイドストーリーをうまく使いながらドラマの世界観を途切れさせることなく完走した数少ない作品。ファンからは「最後まで届け続けてくれてありがとう」と感謝の声が多く寄せられている。


ドラマ『美食探偵』最終話では、これまで放送された第8話までとは比較にならないほど、数多くのシーンで「ありがとう」という言葉が出てきた。最終話前の第8話ラストシーンで、明智(中村倫也)とマリア(小池栄子)が奈落の底に落ちる前、死を覚悟した明智は苺(小芝風花)に「ありがとう、小林…苺」と言い残し、落ちていった。最終話は、一貫してこの「ありがとう」の意味を伝えていたように感じる。胸の締め付けられるような展開となった最終話、そして『美食探偵』というドラマについて、「ありがとう」を道しるべに振り返ってみたい。



マリアとともに消えた明智だったが、その夜、探偵事務所に戻ってきた。口を閉ざしたまま、ドラマは一気に半年後へ。マリア・ファミリーがまた動き出す。


最終話で最初に出てきた「ありがとう」は、茶菓子の選定会当日の駐車場。明智(中村倫也)は、車で送ってくれた苺(小芝風花)に「いつもありがとう」。日頃の感謝を伝えているようで、そこには少し特別な余韻も残った。


選定会では、マリア・ファミリーが和菓子に猛毒・トリカブトを仕込む。政府要人も参加したこの選定会で、明智の母(財前直見)はその毒入り和菓子を口に入れ、気付いた明智が寸でのところで吐かせて命を救った。「あなたのおかげで助かったわ。ありがとう」。母の言葉を明智は「あの場にいたら、誰だってそうする」と素直に受け入れなかったのだが、「ありがとうって言ってるの」ともう一度言う母を、「ああ。」と受け入れた。「子供におふくろの味の思い出さえも作ってあげられなかった」と懺悔する母に、「あなたを憎んだことは一度もない。僕が憎んだのは、僕の母親をそういう母親にした扇谷の看板だ」と告げた。


会場で見つけたマリアに明智は「確かに今の政府は…」と語りだす。このセリフに、マリアと明智の“心のズレ”を感じずにはいられない。これまで明智はマリアの殺人に対し、肯定するのではないが、美学やその意図を理解していた。また、「僕も死ぬかもしれなかった」という明智に対し、マリアは「選ぶはずがない。」「(明智が死んでしまったら)私もその場で死ぬつもりだった」と、明智とは別次元の絶対の信頼とその愛への覚悟を持っていることがわかる。


明智がマリアの手を引き逃走するシーンも、マリアとの距離が近いように見えて、決別のシーンのようにも見える。「あなたが私を求めていたの」というマリアの言葉に、明智は複雑な表情で目をそむける。「あんたも来るかい?こっちの世界に」とシェフが誘った場面でも、「断る」と返した明智の目の奥には、強い覚悟があるように見えた。


“親友”の苺を守りたい桃子(富田望生)に「ありがとう」とお礼を言い、囚われた苺のいる最後の晩餐へ。供された料理に苺は、「美味しいけど、美味しくない」と言った。「お料理っていうのは、食べる相手のことを思って作らないと、美味しくはならないと思うんです!」。そんな苺の「お客さんを元気にしたいと思って」作るちくわの磯部揚げは、明智の救いであり、希望の源だった。しかし苺の首に、マリアが注射。絶望する明智だったが、一つの希望が。「ありがとう、シェフ」。毒の入った注射器をすり替え、苺の命を救ったのはシェフだった。きっとシェフが最後に仕込んだ苺のムースは“美味しい”料理となったに違いない。


第1話で、マリア(小池栄子)は明智(中村倫也)に、「あなたが私を解き放ってくださったんです。私は私でいいんだって」「ありがとう、私の謎を解いてくれて」と感謝の言葉を口にしている。しかし最終話では、「僕が僕らしく生きようとすると、必ず世の中のすべてが、僕をあざ笑い、僕に背を向けた」と、明智も絶望の世界にいたことが語られる。そんな明智が、苺に出会い「こんな僕でも生きていていいんだ」と希望を持つことができた。第8話のラストから何度も出てきた明智の「ありがとう」は、自分を受け入れ希望の世界へ向かう“道しるべ”だったように思うのだ。

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