「私は母親似なんかじゃない」。茜が写真立てに入れて飾っている母との写真。その下にはもう一枚、母親と男が写る写真が。男の顔は黒マジックで塗りつぶされている。そして思い出したのが18年前の出来事だ。
木から落ちたキズ物のりんごでジャムを作る母親と幼い茜。
母:お料理は愛を込めてつくるのが大切なんだよ。
茜:愛ってなに?
母:え…?そうね。お母さんは、茜のこと愛してるわ。
突然泣き崩れる母を茜が気遣うと、母は「やめて!!!!!」と突き放す。「あ…ごめんね、茜。愛って難しいから」我に返った母は、父親を愛していたと告げた。
茜の顔は、母を捨てた父によく似ていた。急に色を失った目で、母は鍋からあつあつのジャムをスプーンにたっぷりすくって、「ほら、味見してみて」と茜に差し出した。まだ幼い茜は「うん!」と口にする…。
大人になった茜は、わざとだと気づいている。むしろその気持ちを痛いほど理解している。しかし「傷ついて終わるのは嫌」。魔女になると心に決め、ぐつぐつと煮えたぎるジャムの鍋を見つめる茜(志田未来)は、ゾッとするほど恐ろしく、狂気に満ちた表情をしていた。
第2話の本編で、苺(小芝風花)が茜に「お母さんだって、人を殺すためにジャムの作り方教えたんじゃないでしょ!」と訴えかけた場面で、驚くほど茜は激昂した。その奥にある感情はこのエピソードを知ることで輪郭がはっきりする。母と同じ道を辿った自分が、魔女になると決めた覚悟は相当なもの。本編最後に、警察に連行される茜が見せた冷めた表情も、この闇の深さから来ていたのだろうと想像させる。
サイドストーリーも本編同様の豪華キャストが重厚な芝居を見せ、本編での表情や言葉に、さらなる説得力を持たせる。これだけの内容は、演技派のキャストでなければ表現しえなかったのかも…とふと思ってしまう。
「撮影が止まったお陰でいいものが見られた」という声まで聞かれた特別編。次週は、“シェフ”(武田真治)と“れいぞう子”(仲里依紗)のサイドストーリーが放送される。
■『美食探偵 明智五郎』
2020年4月期日曜ドラマ 毎週日曜22:30~23:25
原作「美食探偵-明智五郎-」東村アキコ(集英社「ココハナ」連載) Ⓒ東村アキコ/集英社
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