WANIMAというロックバンドをご存知だろうか。名前だけを聞いてピンと来ない人も、1月下旬から中古車情報「カーセンサー」のCMで流れる「切手のないおくりもの」のパンクカバーバージョンを一度は耳にしたことがあるはずだ。今から40年近く前に発表された、当時NHK「みんなのうた」で流された往年の名曲を現代によみがえらせたWANIMAは、2014年10月に初の全国流通盤となるミニアルバム『Can Not Behaved!!』で本格デビュー。Hi-STANDARD、KEN BANDの横山健が代表を務めるパンクロックの名門インディーズレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」に在籍しているだけではなく、同レーベルが初めてマネジメント契約したことでも当時大きな反響を呼んだ。
熊本出身のKENTA(Vo, B)、KO-SHIN(G, Cho)を中心に2010年初夏に結成されたWANIMAはメロディックパンクを軸に、現代のバンドらしくレゲエやスカ、ヒップホップなども飲み込んだ独自のサウンドを確立。2012年12月に同じく熊本出身のFUJI(Dr, Cho)が加入し、現在の編成となり、以降は精力的なライブ活動を展開してきた。2014年には先の横山率いるKEN BANDとも対バンしており、この頃からライブハウスシーンでは着実に知名度を高めていった。そんな中、満を持してリリースされたミニアルバム『Can Not Behaved!!』は新人バンド、かつインディーズにも関わらずオリコン週間ランキングで21位を記録。もちろんこれにはアルバム収録曲『1106』がテレビ東京系「音流〜On Ryu〜」、「BIG UP」が同じくテレビ東京系「モヤモヤさまぁ〜ず2」の各エンディングテーマに採用されるという新人らしからぬ複数タイアップや、全国FM局やCS音楽チャンネルでパワープッシュを獲得したことも大きく影響しているだろう。
そんな中、同年11月からスタートした全国ツアー「Can Not Behaved!! Tour」では、ファイナルシリーズの東名阪公演のチケットが即完売。さらに2015年に入ると「PUNKSPRING」「VIVA LA ROCK」「SATANIC CARNIVAL」「京都大作戦」などの大型フェスへの出演、10-FEETのツアーへの参加など、デビューから半年で一気に活動規模が広がっていく。そんな中、同年8月に満を持してリリースされた1stシングル「Think That...」はオリコン週間ランキング14位を記録。続いて11月に発売された1stフルアルバム『Are You Coming?』はオリコンデイリーランキングで1位、週間ランキングで4位という大成功を収めた。アルバムリリース後にスタートした全国ツアーも各地でチケット完売が続出。東京公演は当初発表されたZepp DiverCity公演に加え新木場STUDIO COAST公演が追加されるも、どちらもソールドアウト。ロックファンの間ではすでにブレイクを果たしているが、先のCMの件やアルバム『Are You Coming?』が「第8回CDショップ大賞2016」の入賞作品選出など、今後オーバーグラウンドでのさらなる飛躍が期待されているバンドとして名前が挙げられる機会も増えている。
WANIMA最大の魅力は、その楽曲の親しみやすさと観た者すべてを巻き込むライブにある。メロディックパンクを軸にしながらも、レゲエやスカなどを飲み込んだゼロ年代以降のロックをも血肉と化したサウンドは、世代によって「新しい」とも「懐かしい」とも感じられるはず。そういったサウンドに、日本語詞が乗ることも彼らの親しみやすさの大きな要因と言える。ときにストレートな意思表明的な内容もあれば、あるときには夜の“ワンチャン”を狙った欲望をそのまま歌った歌詞、またときにはごくプライベートな事柄を歌った叙情的な内容もある。そういった等身大の歌詞にまったく嘘が感じられず、同年代だけでなく彼らよりも年下、さらには大先輩の世代までもを惹き付けている事実は見逃せないだろう。またライブに関しても、数年前までは100人程度の前で演奏するのが精一杯だったものの、大先輩たちとの共演をきっかけに多くのロックファンの目に触れる機会を得て、そういった者たちを見事に巻き込むことに成功している。そう、WANIMAのライブは完全に「巻き込み型」で、その場にいた者たちをどんどん自分たちの渦の中に巻き込んでいってしまう、圧倒的なパワーがあるのだ。それが昨年の大型フェス出演で功を奏し、現在の人気/注目につながっている。
90年代にHi-STANDARDが大事に育てた芽を、ゼロ年代に入ってからMONGOL800がオーバーグラウンドという場所で育て上げ、そして10-FEETをはじめとするバンドたちがどんどん花咲かせた……WANIMAは間違いなくこのバトンを先輩たちから受け継いで、次の世代へとつなげていく重要な存在になるはずだ。そういう意味でも、彼らの今後の動向からは目が離せそうにない。
(文=西廣智一)