――キャストのみなさんは、同世代で、これまで“俳優同士”として付き合ってきた存在ですが、今回は「監督と俳優」という関係性でした。同世代という点で感覚的にはつながりやすかったかと思いますが、やってみていかがでしたか?
中川:楽しかったですね。そこは今回、やりたかった部分でもありました。過去2回の『アクターズ・ショート・フィルム』を含め、自分が最年少組の監督ということで、やはり自分たちの世代のエネルギー、この先、何十年経っても「この時にしかできなかったよね」と言えるような作品にしたいという思いがありました。なので、自分たちの世代の物語にしたくて、必然的に俳優陣も同世代になったし、脚本をお願いした増田嵩虎さんも同世代でした。
――そもそも、この『いつまで』という物語がどのようにつくられていったのか? 脚本の増田さんにはどういう経緯で入ってもらうことになり、どんな話し合いをされたのか? 教えてください。
中川:「若いチームにしたい」という思いは最初からありました。監督も若いし、出ているやつらも若いし、扱っているテーマや出てくるキャラクターたちも同じ世代の話にしたいなと。今回、他に4名の監督さんがいますが、過去の『アクターズ・ショート・フィルム』も含めて、ひとつ自分の“カラー”“強み”としてそこで勝負したいなという思いがありました。じゃあどういう話にしようか? と考える中で、いろんな紆余曲折がありました。もっとSFっぽい話にしてみようかとか、もっとぶっ飛んだ設定だったり、アドベンチャー、アクションっぽいものだったり、いろいろあったんですが、最終的には、もっとパーソナルな部分に立ち返って考えた時、僕自身の周りにいる友達や同級生、具体的に顔が思い浮かぶ仲間たちから考えていって、こういう形になっていきました。20代になって、社会に出て行って、いろいろめまぐるしい中、仕事もなかなか慣れず…とか、みなさん、置かれている状況はいろいろあると思います。目標とか目的とか夢とかあって、そこに一生懸命走っていたはずなのに、ふとした瞬間に「あれ? そういえば、なんで俺、そこに向かってたんだっけ?」とか思ったり、ゴールすることが全てになってしまって、目標や夢が自分の中に芽生えた瞬間のことを忘れてしまうことって意外とあるのかなと思いました。そういう時、学生時代の友達や仲のいいやつらと会うと、自分に立ち返れる瞬間っていうのが結構あるんですよね。でも、男同士だと「いや、聞いてくれよ。俺、いまこういうことで悩んでてさ…」とか直接的なことは言わないんですよね、恥ずかしいし(笑)。別に友達と会って何かを相談して、ヒントや答えをもらうというわけではなく、一緒にいる時間が自分を取り戻せる時間だったり「あぁ、俺ってこういうやつだったんだ」とナチュラルに返れる瞬間だったりするんですよね。それって誰しも経験のあることだったりするんじゃないか? 大人になったみなさん、もっと上の世代のみなさんにも懐かしかったりするんじゃないか? 終電から始発までの話ですが、そこで何か解決するという話でも、答えが出る話でもないですし、明日からも同じ毎日が続くんですけど、どこかでひとつ、自分の指針に立ち返ることができる――そういう友達の存在の話にしてみようかなと。最初はいろいろ考えていたんですけど、結局は自分のパーソナルな人たちのことを考えて、企画を書き始めたら、それまで全然進まなかったのがバーッと進んで、こういう話になりました。
――増田さんに入ってもらうことになったタイミングは?
中川:企画自体を考えて、企画書を書いて、親友の結婚式の帰り道に、酔っぱらった3人がどこかの終着駅に…という構造自体は作って、増田さんにお願いしました。増田さんとは以前からつながりがあって、僕の高校の同級生が劇団を作って、自分たちのプロデュース公演をやるときに本を書いていたのが増田さんだったんです。増田さんがどんな本を書くかは知っていて、同じ世代だからこそ、若者の空気感を作ったり、言葉にするのがすごく上手な方だったし、ここに同世代の脚本家の増田さんが入ってくることにもひとつ意味があると感じてお願いしました。
――タイトルの『いつまで』というのは、どのタイミングでどのように決まったんでしょうか?
中川:そこは増田さんが考えました。とくに理由などについては話してないんですよね…(笑)。でも、なんとなくの“思い”みたいなもの、書き上がった脚本を読ませていただいて「こういうことなのかな?」と意図は汲み取っていました。いろんな含みをもった、いろんな捉え方ができる余白のあるタイトルですよね。この物語も、なにか“答え”が出るお話ではないので、そういう意味で僕はすごく納得したタイトルですね。
――演出部分で大変だったり、何度もテイクを重ねたシーンなどはありましたか?
中川:お芝居に関しては、そんなになかったですね。3人がものすごく素敵で、それぞれキャラクターが立っていて、バランスの良い3人だったので、何度もテイクを重ねたというのはなかったですね。ただ、神社の階段を3人が昇っていくシーンは1カットで撮っているんですけど、そこは大変でした。何十段もの階段をカメラマンさんが後ろ向きでカメラを担いだ状態で昇りながら撮っていて、しかもナイターなので、他のスタッフの影が映り込まないように……あのシーンは1カットで行こうというのは決めていたので、そこは大変でしたね。
――現場ではモニター越しで演技を見ていたんですか? それとも直接、お芝居を見ていたんでしょうか?
中川:現場の環境によってどちらもありました。
――現場でお芝居を見ていて、想像やイメージを超えるものが出てきたのを感じるような瞬間はありましたか?
中川:やはり、ひとつひとつのセリフの発し方、キャラクターの捉え方など、3人それぞれ、僕が想像している以上のものを出してくれたなと思います。僕は監督として全てを見なくてはいけないし、もちろん3人分の台本を読んでいますが、彼らは自分の役柄のことを一人で担い、キャラクターを自分で育てているんです。僕が俳優部の一員として参加している時もそうですが、他の誰よりも自分がこの役のことを理解して、好きでいると思っているので、そこに関しては任せる部分は任せないといけないと信頼しています。もちろん、僕もそれぞれのキャラクターに対する思い入れはありますが、彼ら以上に役のこと考えている人間はいないので、そこは信頼していました。それが楽しかったですね。「そうやってくるんだ!」という新しい発見や驚きが常にありました。
■『アクターズ・ショート・フィルム3』
2月11日(土・祝)午後8:00 放送・配信<WOWOWプライム><WOWOWオンデマンド>
ヘアメイク:堤紗也香
スタイリスト:Lim Lean Lee
取材&撮影:黒豆直樹