昨日、都内で映画「町田くんの世界」ティーチインイベントが行われ、石井裕也監督と池松壮亮、仲野太賀が出席し、映画メディアの可能性や未来について熱く語った。
本作は、第20回手塚治虫文学賞・新生賞を受賞した安藤もものコミックを実写映画化。運動も勉強も苦手で地味な存在の町田くん(細田佳央太)が、出会う人の心を癒し、世界を変えていく姿をファンタジックに描く。
6月7日に公開されてから2カ月近くが経過したが、その独創的な世界観とユニークなメッセージ性は、多くの反響を呼んでいる。石井監督は「映画って他者に対して思いを馳せることで、それが自分にも向いているというのが特異な体験であり、そういうものを目指してやっている」と胸の内を明かすと「ものすごく偉そうな言い方ではありますが、観たお客さんたちの人生や暮らしに“関わり合いを持ちたい”ということなんです」と語る。
池松は「映画というものは、人生を語るものでなければいけない。個人でも社会でも未来を勝ち取るためのものなんです」と映画への絶対条件を述べると「それが揺らいできている危機感はあります。やんわりと映画の価値が落ちていっている。なんとかしなければいけない。いまだに映画を観に来てくれる人には感謝しかないです」と客席に呼びかけていた。
そんななか、本作のラストで主人公が空を飛ぶことに対して池松が「ものすごく意見が二つに分かれたようですね」と話を振ると、石井監督は「そういう意見がでることはわかっていました。でも“〇〇とはこういうものなんだ”という決めつけが一番息苦しい。“映画とはこういうものなんだ”というものを一発で蹴散らしてしまいましょうという意味がある」とシーンについて説明する。
太賀も「それができるのが表現であり、この作品に参加した人間からすると、そういうことを受け入れてもらえたら、映画を作る自由というものが得られると思う。もっと多様な映画が作られるべき」と持論を展開する。
また石井監督は「息苦しさを感じる世の中になったことで、制作サイドもいろいろなことに縛られていく危険性がある。そうなることで監督やプロデューサーが少しでも妥協すると、そのしわ寄せは、肉体で表現する彼ら俳優にいく。僕らが踏ん張らないと」と危機感を募らせていた。
さらに石井監督は現在、新作映画のキャスティング中であることを明かすと「批判ではないのですが、20代の俳優を探していると、テレビでは人気の人がいますが、映画俳優がなかなかいないことに気づかされます。いま、映画というメディアが期待されないものになってきていると思いますが、20代映画俳優の天才2人が背負うものは大きいのではないでしょうか」と池松と太賀に期待を寄せていた。