『青い炎』AKB48小栗有以、表現者としての高まりを見事示した感動的な一夜

アイドル 公開日:2020/01/28 35
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新春恒例のAKB48グループ、9日間に渡るTOKYO DOME CITY HALLコンサートもいよいよ最終日。大トリという大役を務めたのはAKB48チーム8/チームA兼任の小栗有以だ。

小栗が一人でTDCに立つのは実に二度目。一度目は2017年のこと。その頃の小栗はチーム8の中心的な存在の一角となり、『ハイテンション』で初選抜入りを果たすなど、未来のセンター候補という立ち位置に躍り出た頃だ。

あの日から3年の月日が経った。その間に小栗を取り巻く環境は激変した。渡辺麻友から王道アイドルの後継者に任命され、2018年の『Teacher Teacher』では初のセンターに抜擢。選抜総選挙では25位を記録。ドラマ『マジムリ学園』では主役に抜擢と、次世代を担う存在からAKB48の顔の一人にまで成長した。

そして2020年、小栗も高校最後の年を迎えいよいよ大人の仲間入りを目の前にした。




今回「YUIYUITOKYO」と題した二度目のTDCは、第一回目の際、手厚くサポートした指原莉乃も、ステージを支えたチーム8関東メンバーもいない、たった一人の舞台。その中に合って小栗の身心の成長を見事に感じさせる、結果から言えば素晴らしいライブであった。一日経った今も脳裏に強く焼き付いている。

この日のソロコン、小栗は“二つの面”を貫きファンを見事に感動させた。


一つ目は、徹底的に楽しんでもらおうとする、おもてなし精神だ。

大好きな不二家の「カントリーマアム」が好きになった理由を語るミニドラマでホッコリさせれば、『ぐ~ぐ~おなか』で会場中に「カントリーマアム」のおすそ分け。

『ラッキーセブン』では前田敦子が袖を通した衣装を身にまとい、中盤戦の『ハイテンション』ではプロジェクションマッピングを駆使したダンスを披露と冒険心溢れる演出。後半戦は『好きだ 好きだ 好きだ』でバルコニーを練り歩き、『ランナーズハイ』、『法定速度と優越感』と自身が選抜された楽曲を立て続けに並べていけば、おなじみ『47の素敵な街へ』で場内中を一体にさせる。存分にファンに楽しんでもらおう!という小栗による歓待の2時間だった。


そして二つ目、表現者としての成長を見せるという点だ。

この日はハードな『百合を咲かせるか?』で幕を開け、『バラの儀式』、『Blue rose』と“花”にまつわるクールで力強い楽曲を立て続けに披露。3年前のソロコンサートでは徹頭徹尾王道アイドルセットで貫いた小栗からは想像できないほどの幅の広さを早々に見せる。ここから、彼女がこのコンサートを、妥当な言い方ではないが、安心安全のライブで終わらせないという意思を感じさせた。

その意思は、中盤のチャレンジコーナーで爆発。

「挑戦したことを今日はお見せしたいと思います」との一言で始まった今コーナーは、世界的なコレオグラファーによる振付けを通じて、新たな世界観と魅力を引き出すというものだ。

まずは、ロサンゼルスで開催されるダンス世界大会「World of Dance」の2年連続チャンピオンにして、『NO WAY MAN』、『だらしない愛し方』などを手掛けるRuu先生による『プラスチックの唇』(篠田麻里子ソロ曲。隠れた名曲!)。与えられたテーマは「K-POP」。ほぼセンターから動かないという限定空間の中、体幹を駆使した上下の細かく硬質な動きと、扇情的なしなやかさが同居したダンスが素晴らしい。オートチューン気味のボーカルと共にどこか生気を感じさせない無機質さは、小栗にとって今までになかったテイストなだけあって、衝撃的であった。

続くは米津玄師『Flamingo』の印象的な振り、最近ではSTU48『無謀な夢は覚めることがない』を手掛けたシルク・ドゥ・ソレイユ初の日本人ダンサー、辻本知彦氏。「コンテンポラリー・ダンス」をテーマに、小栗自らが自分なりの身体表現を提案しながら作られたダンスは先ほどのミニマルさから一転、ステージの端から端までを使った大らかな動きが光る。楽曲は『この涙を君に捧ぐ』(NO NAME楽曲。これまた名曲!)、「大切な人の心に恵の雨を降らせる」誓いを唄ったドラマティックな世界を、指先からつま先まで意識された滑らかな動きと表現力を駆使し魅せていく。バレエ経験がないというのが信じられない。

3曲目は『すべては途中経過』(AL『サムネイル』収録の、またまた名曲!)。今曲に新たな命を宿すのは乃木坂46の『インフルエンサー』、『シンクロニシティ』を手掛けたSeishiro先生。与えられた演目は「JAZZ」。緩急自在に動くために、力の“オンとオフ”の使い所を意識しなければならないという難しい課題を、小栗は歌詞の風景描写の際のなめらかさ、心情を歌う際の落ち着き、そしてサビでの躍動感…と、場面ごとに見事に使い分けた。何気なくはさまれるターンの体捌きの美しさには思わずハッとさせられた。「振付は洋服、どう着こなすかはあなた次第」の問に、小栗が導き出した答えは「変に着飾らず、等身大で表現する」。まさに小栗の繊細かつダイナミズムがこの今曲ではいかんなく発揮されていた。


三つの新たな世界の扉を開けた後、さらに小栗は伝説かつ謎のダンサー“コリ・オグリ・ファー”YuiYui……もとい、自身で手掛けた振りに挑戦する。「ずっとやりたかったんです!」と大はしゃぎの彼女が手掛けた振りのテーマは「言葉から閃いた踊りをパッパとつけました」と、『抱きしめちゃいけない』に、まさに言葉通り歌詞に沿った喜怒哀楽を愛らしく振りに落とし込んでいた。先ほどのアーティスティックさ全開の振りから一転して、ペンライトも取り入れた会場中も一緒に楽しめる構成を組むあたり、表現者として成長したい気持ちも強く持ちながら、根底にはアイドルとして楽しんでもらいたい精神が根付いているのだなと改めて感じた。

こうしたコーナーを用意するのは非常に難しい。特に今コンサートのように盛り上がりの谷間にある意味緊張感を強いる場面を用意すれば、その場面だけ浮いてしまい、ヘタすれば全体の印象を薄れさせてしまう可能性がある。それでも小栗は自身が置かれた現状に満足せず、さらなる成長を遂げていきたいという想いを形として大舞台で示した。ファンとしてもグループとしてもこれほど心強い存在はいないだろう。


また面白かったのは各先生たちによる小栗評だ。

「可愛らしいイメージはモチロン、シッカリ者。(中略)全てを賭けてやっているのが一瞬でわかる」(Ruu)

「純粋に受け入れる素直さと、(自分の)主張の良いバランス。(中略)可愛らしさと誠実さを持っている」(辻本)

「瞳の奥が強い子。熱心さと純粋さを備えていて、自分にとって今何が足りないかを受け取っている。誰よりも懸命で強く努力を惜しまず、表現ができる子」(Seishiro)

と評し方は千差万別だが、共通するのは小栗の表現に対しての生真面目さ、飽くなき努力家であるという面だ。さらにSeishiro先生が「青い炎」にも例えたのは言い得て妙だ。一見静かに揺らめく最も熱を帯びた炎は、今の小栗そのものだ。


この流れでの小栗から発せられた言葉が非常に感慨深い。

「いつもやっているダンスとは表現の方法が違うから、うまく出来ない自分が悔しくて…」と振り返ると思わず言葉につまり涙を浮かべる。「おい!」と頭をコツンと叩き気合を入れて再び話に繋げようとするが、想いが滲み過ぎるあまり涙が零れる一歩手前。それでも「泣かないで!」と自らに言い聞かせて気を引き締め「今まで気づけなかったことにイッパイ気づけて、この挑戦、してよかったなぁ」と締めた。限られた時間の中、自分に今までなかった世界を取り入れつつ自ら振りを考案するのは相当苦労したはずだ。その部分をドラマとして見せることもできたはず。しかし、あえて映像でも言葉でもその部分を見せず、完成した形だけで人を魅了させた。表現することに対してのストイックさには思わず拍手を送りたくなる。

白眉の時間はその後の歌唱パートにも続いた。

「私の好きなアーティストさんの曲です」で始まったのは大原櫻子のカバー『瞳』。ピアノのみのアレンジで、小栗は歌声を聞かす。繊細ながら高音がスッと抜けていく心地のよい歌声。派手さは皆無、それがピュアな歌詞、閑かな音とリンクし非常にハマっていた。続く『愛する人』もピアノの伴奏のみ、小栗の独唱で披露。ここでも雑味のないクリアな歌声は活きつつ、少し熱を込めて先ほどよりエモーショナルさも感じさせた。これまでは、上下に揺れる味わい深い歌唱がある種魅力的な彼女だが、この2曲で響かせた清廉さ溢れる歌声には思わず目を閉じ耳を傾けてしまった。

決して得手ではなかった歌でここまで聞かせるとは驚いた。きっと先ほどのダンス同様相当な練習を積んできたのだろう。ここでもまた小栗はどれだけ修練をつんだかは一言も述べず。

本編ラスト『アリガトウ』でも再びピアノと声だけで披露。「大切な言葉がたくさん入っています」という感謝の言葉が溢れたこの曲を、真っ直ぐ歌の力で届けようとする。疲れからか低音が安定しない瞬間もありつつも、生の歌声がその想いを強く届けた。見事。

自らが認める苦手なMCも、どれだけ噛んでも、どれだけ言葉に詰まっても、ちゃんと自分の言葉で伝えようとする。その姿には心温まると同時に、思わず心の中で号泣した人も多いだろう。


楽しませることを前提にしながらも、さらなる高みへと向う意思を形にして、見事ファンに届けた一夜。この日最後に述べた、「AKB48巻き返しの章をメンバー、そして皆さんと作っていきたい」という言葉。その物語の先頭を行く一人は間違いなく小栗だ。その大役に相応しい姿勢、心を彼女は備えている。そう豪語できるほどのもの彼女はこの一夜で示した。


取材・文:田口俊輔

写真:ⒸAKS

※本記事は掲載時点の情報です。

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