リベロの長谷部、打ち立てた「金字塔」、コバチ監督が贈った最高級の賛辞
「賛辞」が贈られた。3月5日に行われたブンデスリーガ第23節、フランクフルト対フライブルク戦の後のことだ。 「最高の言葉しかない。ハセベがチームにいてくれてありがたいと思う。チームにとって大事な選手。人間としては、サッカー選手としてよりも、もっと素晴らしい。彼自身、素晴らしいサッカー選手なのだが」 チームは1-2で試合に敗れたが、90分間フル出場した長谷部は、ブンデスリーガの出場試合数を235とする。かつて1.FCケルンやヴェルダー・ブレーメンなどで活躍した奥寺康彦氏が樹立した数字を上回り、同リーグにおける日本人最多出場記録を塗り替えた。フランクフルトを率いるニコ・コバチ監督は、新記録を打ち立てた長谷部に、冒頭の「言葉」を贈った。 今季は、長谷部がリベロのポジションを務めたことが脚光を浴びたシーズンでもあった。もっとも、当初からチーム最後尾の要に抜擢されたわけではない。開幕からしばらく、フランクフルトのサッカーは試行錯誤の中にあった。第5節ヘルタ・ベルリン戦の後に「自分たちのサッカーが確立されているかというと、まだまだされていない」と長谷部も言及している。 そのスタイルが明確になり始めたのは、第9節ボルシアMG戦からのこと。古豪とのアウェイゲームで、長谷部は3バックの中心で守備を統率することになる。昨季の3月にコバチ監督が就任して最初の試合では0-3と完敗した相手を、今度は0-0でシャットアウトする。勝利こそ逃したが、この形に手応えを得たフランクフルト。それから年内を通して安定した戦いを続けていく。12月の前には、新たな職務に長谷部も「自分たちのやり方っていうのは、はっきりしているかなっていう感覚はありますね」と納得の表情だ。 リベロの長谷部は、最後方でDF陣の手綱を握りながら、卓越した読みとスプリントでインターセプトを連発。さらに長短織り交ぜたパスは高い成功率を誇った。守備だけでなく、攻撃の起点としても要となった長谷部。片や右サイドやボランチもこなすなど、チーム戦術に柔軟に対応した。接戦をモノにした11月のブレーメン戦の後では「また上の順位を狙える」と頼もしく語ったように、フランクフルトはリーグ戦を4位で年を越す。チャンピオンズリーグ出場圏内だ。 もっとも、長谷部のリベロ起用が“万能薬”だったわけではない。先のブレーメン戦では、2列目から飛び出してきたフロリアン・グリリッチュを捕まえ切れずに失点した。長谷部は「ちょっと簡単にやられすぎましたね」と振り返っている。 「2列目から入って来た選手を誰が付くかっていう部分で、CBとSBの選手がうまくコミュニケーション取れずにやられてしまった」 また、個人記録を塗り替えたフライブルク戦では、一個前を潰しに行った長谷部の後ろのスペースをCBが絞って埋め切れず、同点に追いつかれてしまう。連携に課題を残した。この一戦に敗れたことで、フランクフルトは4連敗。怪我人や出場停止の選手も続き、31年ぶりに“金字塔”を打ち立てたにもかかわらず、長谷部の表情が浮かなかったのも無理はない。 そして、その次節のバイエルン戦。王者とのアウェイゲームでも、ロングボールに合わせて飛び出したトーマス・ミュラーを捕まえられなかった。ミュラーのループシュートに追い縋り、ラインを割る寸前でクリアした長谷部は、そのまま左のポストに激突。左のすねだけでなく右の膝も負傷してしまう。右膝は手術を受けることになり、この時点で長谷部の16/17シーズンは幕を降ろすことになった。 その後、完全に失速したフランクフルトは11位でシーズンを終えている。もしリベロの長谷部が離脱していなかったら、チームは立て直せただろうか。2列目からの飛び出しによる失点やDF陣の連携不足を、修正できたかもしれないし、できなかったかもしれない。それは誰にも分からない。 いずれにせよ、来季に向けて“課題”は残ったままだ。そしてコバチ監督が、長谷部の復帰を心待ちにしていることは間違いない。そうでなければ、あれだけの賛辞を贈ったりはしないだろう。 文・本田千尋 写真:tsutomu kishimoto kinggear