酒井高徳が抱く”プライド” 名門を降格の危機から救えるか
代表ウィークに突入する直前の3月18日、対フランクフルト戦の後で、ハンブルガーSV(HSV)に所属する酒井高徳は、取材陣を前に「絶対勝ちに行きたいと思います」と語気を強めた。話題が5日後に迫ったロシアW杯最終予選のUAE戦に及んだ時のことだ。 連敗しているUAEに対して苦手意識を引きずっているところがあるか、というこちらの問いに、酒井は「いつ、どの試合でも勝ちたいと思っているけど、やっぱりどうしても結果が付いてこなかったらそういう風に思われるだろうし、そういった心配を払拭させるいいチャンスだと思う」と答えてくれた。 ブンデスリーガの試合を終えた後は、チームの勝敗に関わらず、穏やかな姿を見せることの多い酒井が、この日は少し違った。ピッチ上で闘志を剥き出しにする戦闘モードを引きずっている。そんな感じだった。 その酒井のいつもと違う雰囲気は、大一番を前に長谷部誠の負傷離脱の可能性が耳に入り、身が引き締まったからなのかもしれない。それともHSVでキャプテンを務め始めたことで、日本代表で主将を務める長谷部の名を持ち出されることに、辟易して来たからなのかもしれない。もちろん酒井のどこか荒ぶる雰囲気は、こちらの思い過ごしと言えば、思い過ごしだ。ただ確かなことは、フランクフルト戦の後で、「いつ、どの試合でも勝ちたいと思っている」という言葉で表したように、酒井がサッカー選手としての“自負”を示したということだ。 今季は“キャプテン”や“ボランチ起用”といったキーワードが目立つ酒井。もちろん酒井は、オリジナルの主将像を練り上げるべく、マルクス・ギズドル監督から与えられた役職に全身全霊で取り組んでいる。また主将として初勝利を挙げた、昨年12月ダルムシュタット戦の後では、ボランチのポジションについて次のように語っている。 「ボランチをやるからには、攻撃面でも助けたいなあと思うし、自分の売りがそうじゃなくても、少しずつ向上したいなあと思うし。100パーセントとか完璧じゃなくてもいいけど、1試合1試合チームにとって必要な存在になって、1試合1試合ボランチっていうポジションを誰が見ても、『わあ、上手くやっているよね』って思われるようにしたい」 そこには、昨日よりも今日は上手くなっていたいという、フットボーラーであれば誰もが抱く“飢え”が垣間見える。今シーズンは新たな役職や本職ではないポジションが人目を引くが、それ以前に酒井は、やはりブンデスリーガを戦う1人のサッカー選手なのだ。 自身の出場機会はなかったが、酒井の宣言通りに日本代表は23日のUAE戦をモノにした。そして28日のタイ戦では、不慣れながら日本代表のボランチを全うして、酒井はハンブルクに帰ってきた。そしてHSVを1部残留に導くための戦いが始まる。主将の双肩に掛かるプレッシャーは想像がつかない。 それでも酒井の抱くHSVの選手としての“プライド”が、名門を2部降格の危機から救ってくれるはずだ。 取材・文/本田千尋 写真:tsutomu kishimoto kinggear