香川「10番」の雄叫び、6月はイラクを蹂躙できるか?

殻を破ったのか。香川真司が吠えた。28日の埼玉スタジアム2002、W杯アジア最終予選グループB第7戦。日本代表はタイを迎え撃った。8分、“頼れる新参者”久保裕也が右サイドから入れた、グラウンダーのクロス。ゴール前でピタリとトラップした香川は、タイのDF2人をシュート・フェイントで交わし、右足でボールをゴール左隅に突き刺した。

2015-10-08-17.03.57-1
反転してコーナー付近に向かって駆け出し、雄叫びを上げる香川。10番の“叫び”に、深い青に染まった埼玉スタジアムは、瞬く間に燃え上がった。新興国の出鼻を挫く、力強い一撃。難敵UAEを敵地で退けた日本代表の勢いを、さらに加速させようとする一撃。これでようやく香川は、日本代表の選手として背負う“10番”の責務の一端を、果たしたことになる。だがしかし、この先制弾が、巨敵に一矢報いようとするタイの野望そのものを打ち砕くまでには、至らなかった。

タイは、強かった。遠く離れたアウェイの地でも、決して臆することはなかった。“至宝”チャナチップ・ソングラシンを筆頭に、必死にボールを繋いで攻めて来た。ベタ引きでカウンターを狙うことはない。自分たちの持ちうる力を全て出し切ることに、何のためらいもなかった。

ボルシア・ドルトムントの選手として欧州に名を馳せる“カガワ”の一撃を食らっても、タイの選手たちは心折れることなく、何度も川島の守るゴールを脅かした。終盤の86分にはPKまで獲得する。最終的には訪れたチャンスを確実に決め続けた日本が4-0で勝利したが、スコアの差ほどには、両チームの間に実力差はなかった。ディーンダーがPKを決め切れなかったタイは、日本風に言えば、“内容は良かったが、わずかな差で負けた”、ということになる。

だから、この香川の一撃は、まだ“序奏”に過ぎないのだ。もちろん本田圭佑が実質的な10番を背負っていたザック・ジャパン時代に決めた数々のゴール——例えば欧州遠征のフランス戦でのカウンター・アタックからの一発や、コンフェデ杯でイタリアに浴びせた一発―とは違って、今回のタイ戦のゴールは、巧さだけではなく力強さが加わっている。俺が日本を勝利に導く。俺が先制する。そんな気概が感じられた。これまでの香川とは違う、獰猛な野性味が漂っていた。香川の中で、確実に何かが芽生えつつある。

だが、そんな香川の勝負強さを持ってしても、タイが日本戦に抱いた全ての野心を粉々にすることはできなかった。埼玉スタジアムの一角を占めたタイのサポーターは、香川の先制点と、それに続く日本の圧勝劇に落胆しただろうが、それ以上に、祖国を代表するチームの奮戦に胸を打たれたのではないだろうか。

やはり“10番”に求められるのは、対戦相手を奈落の底に突き落とすゴール。どう足掻いても日本には勝てない。敵をそんな失意にまみれさせるゴール。もちろんタイがしっかりとサッカーをしてきたように、アジアの戦いは甘くはない。しかしロシアW杯本大会を見据えれば、アジアで躓いていいはずがない。気付けば日本も、98年のW杯初出場から20年近い時が経過し、二桁を超える代表選手が欧州でプレーするようになった。だから予選の開催期間中には長期合宿を組めないというデメリットも生じているが、それを差し引いても、アジアの挑戦者たちに力の差を見せ付けていい。それだけのポテンシャルが、日本代表、そして香川には秘められているはずである。

ようやくW杯予選で、“勝負強さ”を発揮し始めた香川。6月の第8戦では、イラク代表を、無慈悲に蹂躙してくれるはずだ。

(本文:大友壮一郎/写真:tsutomu kishimoto kinggear)