ギタリスト平井武士「インストと歌物の垣根を取っ払う」
声優ユニット”スフィア”のバンドマスターを筆頭に、浅倉大介、コタニキンヤ、氣志團、ゴスペラーズなど、数多くのアーティストのサポート・ギタリストとして活動中の通称”jet”ことギタリストの平井武士。 そんな彼が2ndアルバム『Rays of the jet』を10月8日に発売する。オリジナル曲を中心に構成しながらも、中にはスフィアのメンバーが全員参加した『Y.M.C.A.(YOUNG MAN)』をはじめ、沢田研二の『勝手にしやがれ』、ショパンの『別れの曲~Relative Style~』などのカバー曲も収録。参加メンバーも、渡辺剛(P)や外園雄一(Dr)、岩切信一郎(B)など、スフィア関連の楽曲ではお馴染みの方々が勢ぞろい。 リリース後には、2ndアルバム『Rays of the jet』を軸に据えた全国ツアーも計画する。同アルバムの魅力を、平井武士がじっくりと語ってくれた。 僕が目指しているのは、「インストと歌物の垣根を取っ払う」こと。 ――4年ぶりとなるソロ・アルバム『Rays of the jet』が、完成。1stアルバムの『jetism』を出して以降、ここへ至るまでにも、いろんなドラマがあったようですね。 平井 僕がフュージョン・バンドTRIXのメンバーとして活動していた頃から、各地のライブハウスのオーナーさん等から「ソロ・アルバムは作らないの??」と言われ続け、みなさんの後押しを受ける形で、4年前に1stアルバムの『jetism』を制作。「作った以上、何かしら発表の場を持たねば」ということから、現在も定期的に行い続けている本厚木CABINを舞台に、”名曲をインストゥルメンタルでカバー演奏する”というテーマを掲げ、定期的にライブ活動を始めました。同時に、「2年後くらいには、また新作アルバムを出したいね」とディレクターさんや親しい方々に話をしながら、オリジナル曲も書いてはいたんですけど、日々のいろんなスケジュールに追われ続けていく中、結果的に4年も月日が流れてしまったという。 4年間も準備期間を設けながら、レコーディングは、録り、ミックス、マスタリングまでも含めて一週間で制作。参加したミュージシャンの方々から「普通、こんなスケジュールでアルバム制作しねぇぞ」とブツブツ言われながらも、ほとんどが1テイク。多くて2テイクの録りで終了(笑)。参加した方々は、僕の先輩方とはいえ、みなさん普段から一緒に現場でレコーディングやステージ演奏している仲間たち。なので、言葉を交わすときも「ああいう感じで」「ああ、ああいう感じね!」と、それだけで十分に求めるものを弾いてくれるんで安心なんです。 ――ギタリストのインスト・アルバムということから、聴く前までは「速弾きを筆頭に、どんなテクニカルなプレイを味わえるんだ??」と勝手に想像を巡らせていました。でも、実際に『Rays of the jet』から流れてくるのは、ギターの旋律が歌い続ける、とてもポップで聴きやすい内容。そこへ、嬉しい驚きを覚えました。 平井 普段、歌物しか聞かない人にとってインストゥルメンタル(以下、インスト)アルバムって、とっつき難いと思うんですよ。逆に、普段インスト物しか聞かない人も、歌物は敬遠しがちだったりもする。僕は、その「インストと歌物の垣根を取っ払いたかった」んです。僕もそうですし、アルバムに参加しているミュージシャンみんなも、普段は歌物の現場で活動しているテクニシャンなプレイヤーたちばかり。歌物の良さを知っているプレイヤーたちだからこそ、「インストと歌物の垣根を取っ払いたい」という意味も十分に理解した演奏をしています。せっかくの垣根を壊すソロ作品の機会に、小難しい演奏ばかりを詰め込み、ポップスのフィールドで慣れ親しんでくれてる人たちとの距離感を広げてしまっては意味のないこと。むしろ、とれだけ互いのフィールドを近づけ、垣根を壊していけるのかが大切なことだと僕は思っています。もちろん、音色や機材、細かいプレイ面も含め、みなさんテクニカルなことをやっていますけど。一番重要視したのは、”OLさんが出勤前のメイクの時間に気分を上げるためにBGMとして流したくなる”ような、耳触りの良い音楽ということでしたから。 ――そこが、平井さんの”表現の軸”となっている面なんですね。 平井 インスト界には、聴く者を圧倒させるものすごいテクニカルなプレイをする方は沢山います。でも、素人感覚では親しみを覚え難いところもあるせいか、なかなか広く伝わってはいかない。J-POPのフィールドでも活動している僕が、同じマニア向けの音楽をやっても、それは自分が抱くべき表現の使命感とは違うのではないか??普段インスト音楽を聴かない人を、そのフィールドへ関心を向けさせることが僕の役目。僕自身が、TM NETWORKが好きだったり、浅倉大介さんプロデュースのアーティストの方の現場からプロとしての活動を始めたように、大勢の人に親しんでもらってこそというのを、現場を通して強く実感し続けてきた。その経験も大きいんでしょうね。 ――普段、ポップスの世界に身を置いて活動しているからこそ、そういう柔軟な意識を持てるようにもなれるんでしょうね。 平井そこは大きいと思います。よく日本武道館や代々木競技場第一体育館など大舞台でバックメンバーとして演奏しながら、「これだけの人たちにインスト音楽の楽しさを伝えられたら」「インスト音楽を楽しみたくて、これだけの人たちが大きな会場に集まったら」と思いますもん。この間もスフィアのライブを通し、メンバーの転換の合間に、日本武道館で満員のお客さんを前にインスト・ナンバーを演奏してたときも、「すごく気持ちいい」と思ったんですね。この風景を、インスト・ナンバーを届けるアーティストのワンマン・ライブでも作りあげることが、僕の目指している夢なんです。 男性や大人の女性に子供の声まで。スフィアのパートはすべて4人の声のみで構成されたもの。 ――アルバム『Rays of the jet』にも、3曲カバーナンバーを収録しています。カバー曲の演奏は、定期的にライブ活動している本厚木CABINのステージを通して行い続けていることですよね。 平井『Y.M.C.A.(YOUNG MAN)』も『勝手にしやがれ』も、ライブでよく演奏してきた楽曲たち。とくに『Y.M.C.A.(YOUNG MAN)』は、お客さん全員が「Y.M.C.A.」とやるまで演奏を終えない(笑)。おかげで、みなさんやってくれるどころか、サビ以外でも振りをしてくれてる人たちまでいますからね。『勝手にしやがれ』は、僕と同い年。ジュリー(沢田研二)が『勝手にしやがれ』を発意したのが77年5月で、僕が生まれたのが77年6月。『Y.M.C.A.(YOUNG MAN)』も『勝手にしやがれ』も、何かのきっかけで楽曲人気が再浮上したわけではなく、発売した当初からズッと変わることなく愛され、支持を得続けてきた曲たち。誰もが親しみを覚える曲たちをインストにして聞いてもらい、そこでインストと歌物の垣根を取っ払っていきたかったんですよね。本厚木CABINのライブでは、他にも『オペラ座の怪人』やシャネルズの『ランナウェイ』、美空ひばりのさんの『真赤な太陽』、ロイ・オービソンの『オー・プリティウーマン』などなど、いろんな名曲をカバー演奏しています。 ――先ほど、スフィアのライブでインスト演奏をした話がありましたが。声優ファンの方々は、そこでも熱く盛り上がってくれません?? 平井 僕が初めて女性声優さんのステージで演奏する機会に恵まれたとき、知り合いの方に言われたのが、「ファンの人たちが嫌な想いをするから、声優さんには一切絡むことなくバックバンドに徹して演奏しなさい」ということ。なので、スフィアさんのライブ現場に声をかけられたときも、僕はその意識を持って最初はライブへ臨んでいたんですけど…。僕は、大の赤色好きで、服も、アンプもと、何から何まで赤色にしているんですね。そのうち客席に、スフィアのイメージカラーにはない赤色のサイリウムを振り出す人たちが現れれば、「たけしー!!」と声を上げてくれる人たちが増え始めました。ファンの人たちは、僕らが勝手に思い込んでいた意識などまったくないどころか、僕ら演奏するメンバーも含め、スフィアを形作るチームとして認め、応援してくれている。きっと僕がファンの立場だったら、何色かわかんないような髪の毛をしている奴がメンバーの側で弾いてたら、「引っ込め」と思ってしまう気がするんですけど(笑)。スフィアファンたちは、新幹線の帰りのホーム上でも「今日はお疲れさまでした」と礼儀正しく挨拶してくれる人たちばかり。むしろ、「こちらこそありがとうございます」と恐縮してしまいますからね。 ――アルバム『Rays of the jet』にも、スフィアのメンバー関連現場で演奏している人が多く参加していません?? 平井 スフィアのライブメンバーの初代バンドマスターだった渡辺剛(Org/P)さんを筆頭に、同じくスフィアや各メンバーのライブ現場でもよくご一緒している外薗雄一(Dr)さんや岩切信一郎(B)さん、籠島裕昌(Org/P)さん。山田章典(B)さんは戸松遙さんのソロ作品に参加。まさに、いつものメンバーが参加しているように、それぞれの演奏の中からも、「あの曲のイントロ、あの楽曲の演奏の雰囲気が出てない??」など、スフィア関連曲たちを演奏しているメンバーたちだからこその個性的な表情を、この『Rays of the jet』からも感じられると思うので、スフィアファンの方ならそういう楽しみ方も出来るかと思います。 ――スフィアの4人も、「Y.M.C.A.(YOUNG MAN)」に掛け声で参加しています。収録もアッという間だったそうですね。 平井 もう、アッという間でしたね。何が大変って、それぞれに忙しい4人を、限られたレコーディング日程の中、本当に集められるのか??ということ。最初は、それぞれに来れる時間に来てもらい、バラバラに収録したのを編集でひとまとめにしようと思っていたら、スフィアのスタッフチームが「やるからには全員揃えましょう!!」と言ってくれて。みなさん早起きし、スタジオに集まって頂いて録ったんですけど。あれは嬉しかったですね。現場では、まず4人に楽曲を聴いてもらい、「ここの尺の間に4人の盛り上がったY.M.C.A.の声を入れたい」と依頼。一度楽曲を聴いた4人は、ものの数分話した中で、あの収録したテイクを一発で録ってくれました!! ――中に男性も参加していますけど、平井さんも一緒に叫んでたんですね。 平井そう思うでしょ?!。あれ、僕じゃなくて。あのパートに出てくる男性や女性、子供など、ガヤを含めたいろんな人の声は、すべて4人のみで出しているんですよ。しかもスフィアのパートは、先に行った言葉以外具体的な指示は一切なし。すべて、その場で4人が作り上げたもの。やっぱり、声のプロってすごいですよね。実際にスフィアのライブ現場でも、「ここの曲のこの部分の尺を伸ばして、ここに4人の挨拶を入れようか」と言うと、4人は振り順も含め、その場ですぐに完璧に仕上げてみせる。その勘の良さが卓越しているからこそ、本業の声のお仕事でも、飲み込みも早ければ、望んだことを求められた以上の形で返す。そこの評価を受け、多くの作品に関わっていけてるんでしょうね。改めて、スフィアの4人に、その感覚を実感させられた体験でした。スフィア関連の楽曲に触れている人たちなら、いろんなフレーズに共通点を覚えると思います。 ――完成した、2ndアルバムの『Rays of the jet』。平井さんにとってどんな1枚になりましたか?? 平井どれも、楽しく口づさめるインスト楽曲ばかりで、とてもハッピーな1枚になりました。 ――このアルバムの聴きどころも、ぜひ、教えてください。 平井たとえ1曲とはいえ、スフィアの4人が参加した『Y.M.C.A.(YOUNG MAN)』は、聴いてて思わずニヤけてしまえば、何度も繰り返し再生してしまいたくなるくらい、楽しさの伝わる声が入っています。しかも、スフィアや、それぞれのメンバーのソロ作品でプレイしているミュージシャンがこのアルバムにも参加しているように、スフィア関連の楽曲に触れている人たちなら、「あっ、これは籠島さんの演奏っぽいよね、外薗さんのドラムって、いっつもこうだよね。このフレーズは岩切さんだよなぁ」と、共通点を覚える表情もいっぱい入っていますから、そういうのを発見してもらえたら嬉しいなと思います。余談ですが、いつだって本気で全力なスフィアのメンバーの姿には、毎回見習うことばかり。ライブのリハーサルのときも、それぞれに声優としての仕事を終えてからスタジオに集まり、夜中までリハーサルをすれば、その後にダンスのレッスンを行ったり。どんなに忙しくても、まったく疲れを見せないどころか、いつも笑顏で挨拶を返してくれる。その姿を見るたび「僕らが”疲れた”なんて口にしちゃいけない」という気持ちになるように、彼女たちからは、いつもたくさんのことを学ばせて頂いてます。あと、楽器をプレイする人なら、ぜひ、真似して弾いてもらいたい。初心者でもコピーしやすいです。何年、何十年も楽器の演奏をやめていた方でも、押し入れから久しぶりに楽器を取り出し、楽器を弾く楽しさを思い出してもらえたらなと思います。細かく聴き込むほどに、いろんな難易度も見えてきますから。 ――リリース後には、10月28日の目黒ブルースアレイジャパン公演を皮切りに「平井武士『Rays of the jet』発売記念ライブ」活動も行われます。 平井いわゆる短期間で各地を回るという形ではなく、参加ミュージシャンたちのスケジュールの都合もあるように、月1-2本などのペースになるとはいえ、この『Rays of the jet』を手に、じっくり時間をかけながら全国各地を回ります。本厚木CABINでのライブも定期的に行っていますので、いろんなカバー曲を聴きたい方は、ぜひ足を運んでください。もちろん、カバーの新曲もどんどん増やしていくつもりですから。